エチュード

ソリスト大解剖 「 前川典子さんに聞く 」

[2001/6/6 第39回定期演奏会]

今回は、コッペルの「マリンバ協奏曲」のソリストである打楽器奏者の前川典子さんに インタビューに答えていただきました。

マリンバとの出会いについて

---まず、マリンバとの出会いについてお話いただけますか

マリンバには、幼稚園のときに出会いました。 父親参観の日に、恩師の小川順子先生がマリンバを演奏され、それを観た見た両親が、 子供に習わせたいと思ったのがきっかけです。 3歳半からピアノは習っていたのだけど、両親が、姉と私に、 「どっちかマリンバをやる気はないか?」と聞き、(姉はいやといったけど、) 私はやってみてもいいかな、と思ったのでやり始めました。

---なるほど。では、マリンバに対する思いというのはというのはどんなもの?

生活の一部になっています。マリンバが家にあって当たり前という感じかな。練習していないと不安になりますね。でも練習キライだけど

---ちょっと気づいたのですが、バイオリンのように子供サイズのマリンバがあるのですか?

いいえ。大人でも子供でも使う楽器は変わらないんです。小さい頃は、背が低くて鍵盤に手が届かないので台に乗って練習したんですよ。

---なるほど、でも何オクターブもある楽器を演奏するのだから、長細い台の上に乗っていたのでしょうね。 ところで、前川さんはマリンバ以外にはどんな楽器を持っていますか?

ヴィブラフォン1台とシロフォン1台と、ドラムセットと、ボンゴが2セットと、コンガがあります。 大きいのはそれくらいなのですが、音が出れば何でも打楽器になるから、インドやらアフリカの楽器やらいろんなものを揃えだしたらキリがないんです。 小さい楽器や人の楽器を預かったりして、片付けるのに困っています。(誰か一緒に片付けてください!)

---ほう、インドやアフリカですか。 もしや、生活をしていたら何でもたたいてみたいという衝動にかられるのでしょうか?

ステンレスのボールなどはいい音しますよ。 両親も「これいい音出るから」と言ってはいろいろ拾ってきてくれます。 ドイツ留学中にどうしてもブリキのバケツを使いたくて、苦労したことがありました。 日本ならどこにでもあるバケツですが、なかなか入手できなくて・・またこれが高いんです。

---どこにでもありそうなのに、意外なものが高いんですね。

バチ

---えと、楽器をたたいているバチにもいろいろ種類があるようなのですが、 演奏会などをみていると、くずかご位の大きさのいれものに、いっぱいバチを入れて舞台に出ておられますが。

マレット(マリンバを叩く、バチのことです)もいろいろ揃えるので、 単価は安くてもトータルするとすごい金額になります。 現在、スーツケース2個分のマレットを持っていますが、いいのがあればまだほしいです。 マレットと楽譜にはお金かけてます。

---えぇ!そんなに。その、お金をかけているマレットについてもう少し教えて下さい。 何がちがうのですか?巻いてある糸の色とか

もちろん色も違いますが、巻いている糸によって硬さも変わるんですよ。 高音は鍵盤が分厚いので硬いマレットを使わないと鳴らないし、 低音は鍵盤が薄いので、逆に硬いマレットでカン!と叩くと 鍵盤が割れてしまうのです。 だから、高音から低音まで駆使するような曲だと、両方を満足するマレットがないのです。 曲の途中でマレットを持ち変える奏者もいますが、私は、1種類のマレットでいろんな音色を出したいと思ってますので、 あまりコロコロとマレットを変えるのは好きではありません。 気に入るのがないと自分で巻き直したりもします。 ゴム球のマレットを買ってきて自分で巻いたりもします。 今までに満足したバチに出会ったことはまだありません。

楽器の奏法

---打楽器にはいろんな種類がありますがそれらの楽器の奏法はいつ覚えていくのですか?

基本的には、その楽器に出会った時に勉強します。 例えば、ボンゴが出てくる曲があると、その時にボンゴの奏法を覚えるとか。 もともと習いたい恩師がいるからドイツに留学したのですが、そこでマリンバから小太鼓、 ティンパニの叩き方まで一通り勉強し直しました。 公開レッスンに行って他の人のマリンバの奏法を見たりもしました。 叩くだけという単純な楽器はかえって奥が深いのではないかと感じています。

ドイツ留学時代について

---ドイツのお話が出ましたが、留学時代についてお聞かせください。ドイツのどのあたりに留学されておられたのですか?

5年間、ドイツのカールスルーエというところに留学していました。 フランスの国境まで電車で1時間、スイスの国境まで電車で1時間半という所です。

---月並みな質問になりますが、ドイツに行く前と行ったあとで変化したことはなんですか?

料理の腕が上がったことかな。和食のです。自炊していましたし、 また、ドイツ人に和食をごちそうするために、よく作っていました。

---料理・・・ですか・・

あと、いやなことは、はっきり「いや」と言えるようになりました。 また、日本のいいところ、悪いところを身にしみて感じるようになりました。 日本は物が氾濫しすぎだと思いますし、ドイツでは環境に適応するために行動しますが、 日本では環境が適応してきてくれる感じがします。 それから、やはり文化の違いを痛切に感じましたね。 時間にも少しルーズです。演奏会でも本番前日になっても順番がわからなかったり、 やるのかやらないのかもわからなかったり。これで何度もケンカしました(笑)

---そこは日本人というところでしょうかね(笑)日本で勉強するのとは何が違いましたか?

やはり言葉ですね。語学ができないと何もできない。 あと、生活習慣かな。たとえば、日本だとちょっと困った顔をすれば、 周りが「あれ?困っているのかな?」と察知してくれるけど、ドイツはそれはないです。 でも、いやなことがあったときに、「大丈夫?」と言葉で言うのではなく、 外から守ってくれるという面もあります。また言葉を濁すということができないのです。 周りからも「自分の権利が侵れていると思ったら、全部相手にしゃべらないといけない」といわれました。 そのおかげではっきりものを言うようになったかもしれません。

---留学中の失敗談やおもしろかったことがあれば、聞かせていただけますか?

2月にドイツに行って、いきなりその4月の大学の定期演奏会にのせられました。全然ドイツ語がわからないのに

---え〜そんな!? 想像しただけで、冷や汗出てきそうですよね

その演奏会で私はドラを担当していたのすが、指揮者が音を伸ばすよう指示していたのに、 私は言葉が聞き取れずにその音を止めてしまっていたのです。 そうしたら、指揮者に「なんでその音止めるんだ」と凄く怒られ、 一緒にいた日本人に「伸ばせと言っているよ」と教えてもらって初めてわかったのです。これが最初の失敗です。

---ひえ〜

恐かった経験もあります。休日に学校で一人で練習していたら、 いきなり警察が入ってきて、なんと銃を構えて、「何をやっているんだ」というのです。 練習していると言ったらわかってもらえましたが、あれは恐かったです。 日本では考えられないことなので、ヨーロッパにいるんだなと思いました。

---ひえ〜ひえ〜

逆に、日本みたいにお酒を飲まされることはないので、酔っ払っての失敗というのはありません。 お酌しにまわるということもありません。みんな自分で注ぎます。

---手酌ですか?なんとなく寂しい気持ちが・・・  (やっぱり日本人かな私は)

今回の演奏曲について

---今回この曲を選んだ理由を教えて下さい。

この曲は、一度演奏したいと思っていた曲でした。ドイツの音大の卒業試験ではリサイタル2回と、 コンチェルトを1回しなくてはなりませんでした。で、その時コンチェルトでやりたいと思っていたのがこの曲でした。 しかし、実際には違う曲を演奏したので、いつかこの曲をやりたいと思っていたのです。ちょっとポップで聴きやすい曲です。

---オーケストラは結構難しかったりして(ははは・・・)そうそう、この曲のカデンツァは後から作られたということを練習中に聞きましたが。

もともとこの曲は、第1回ルクセンブルグ打楽器コンクールの最終選考のために書かれた曲で、 その時にはカデンツァはなかったのです。しかし、その後いろいろな所で演奏されるようになって、 カデンツァが書かれました。私は2年前にこのカデンツァの楽譜を手に入れました。

---今後どの様な活動をされていきたいと思っていますか

「低料金で、質の高い音楽を!」「演奏者と聴き手が一緒に楽しめるコンサートを!」をモットーに、 4ヶ月に1回ペースで、スタジオかまぼこ(奈良市西千代ヶ丘バス停近く)にて「びっくり箱コンサート」を開催しております。 (最近は、リサイタルやなんかで少しご無沙汰していますが…。)

帰国した理由が、演奏活動と指導の活動を通じて、自分の師匠の道筋をきちんと後に伝えていくということだったので、只今奮闘中です。 学校や、子供会、パーティでの出前コンサートなどの演奏依頼、個人レッスン、グループレッスンなどの指導依頼など、 常時受け付けていますので、気軽にお問い合わせください。よろしくお願いします!

---長い時間ありがとうございました。